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製造業DXが進まない理由とは? 課題や具体的な進め方、成功のポイントを解説(Vol.127)

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人手不足や、レガシーシステム残存、生産性の低下など、企業がかかえる多くの問題解決のため「DX」に着手する企業も増加傾向にあります。大手を中心にDX推進が拡大している一方で、製造業企業の中にはDXがうまく進められていないというケースもみられます。

本記事ではおもに製造業企業向けの情報に注目しつつ、製造業DXの現状や課題、DXが進まない理由やこれから推進するための具体的な進め方などについてまとめて解説します。製造業DXのメリットについてもあらためて解説していますので、ぜひこのコラムを自社のDX推進に活用してください。

製造業DXの現状

製造業DXの概要や、日本国内の製造業DXの現状について解説します。

製造業DXとは

経済産業省の定義における「製造業DX(製造業デジタルトランスフォーメーション)」とは、IoTやAI、産業ロボットを始めとする最新のデジタル技術を利用することで、製造業に大きな変革を起こす取り組みのことです。

製造業におけるプロセスは、一般的に研究開発や製品設計、生産などの連鎖となる「エンジニアリングチェーン」と、受発注や生産管理、生産から流通・販売・アフターサービスといった部分である「サプライチェーン」のふたつに分かれます。製品や生産技術に関するデータは、これらのチェーンを通じて流れ、結びつくことで付加価値を生み出しています。

こういったプロセスの中で、最新のデジタル技術をもちいながら、データの利活用をより推進することで製造業に画期的な改革をもたらすことが可能です。新たな付加価値の創出と社会課題の解決を目指すのが、製造業DXです。

日本国内における製造業DXの現状

日本国内で製造業DXを推進する流れとなっているものの、製造業DXは海外諸国よりも遅れているのが現状です。経済産業省の公表によると、生産プロセスに関する設備の稼働状況等についてデータ収集を行っている国内製造業の割合は、51%程度にとどまっています。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)発表の「DX動向2024」(※1)の資料によると、DXに取り組んでいる企業の状況別の回答割合は、「金融業・保険業」が97.2%、「製造業等」が77.0%と2番目に高い水準となりました。DXの取り組みに関する専門部署やプロジェクトチームの有無に関しては、1,001人以上の規模の企業は「専門部署がある」または「専門部署はないが、プロジェクトチームがある」が合わせて全体の89.1%を占めています。

一方で、日経BP総合研究所が従業員100人以上の製造業勤務者3,000人に対して行った「製造業DXに関する調査」によると、製造業DXの取り組みや進捗に対して「とても順調である」または「まあ順調である」と答えたのは、回答者全体ではわずか27.0%にとどまりました。

製造業は全産業から見るとDXへの取り組みや対応を行っている大企業は多いものの、実際の取り組みや進捗はあまり進んでいないということが分かります。

※1 出典:IPA独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2024」

https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/eid2eo0000002cs5-att/dx-trend-2024.pdf

製造業で発生している「2025年の崖」の解決策としてのDX

製造業DXは、経済産業省で推進が叫ばれている国策でもあります。製造業DXへ国をあげて取り組もうとしている背景にあるのが、2025年の崖問題です。

2025年の崖とは

日本の製造業には、「2025年の崖」問題が存在しています。経済産業省の報告書「DXレポート」によると、日本の製造業の約8割が雑化・老朽化・ブラックボックス化した基幹系システムである「レガシーシステム」を抱えていると言われています。世界規模でDXの推進がおこなわれる中、レガシーシステムを抱える企業は爆発的に増加するデータの利活用が進まず、いわゆるデジタル競争の敗者となってしまう可能性があります。レガシーシステムを抱える企業がこのまま存続することで、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了などによるリスクの高まり等につながる可能性があり、経済損失は、2025年以降最大12兆円/年(現在の約3倍)に上ると予測されています。この危機のことを「2025年の崖」といいます。

2025年の崖の解決策としての製造業DX

2025年の崖を抱えたままでいると、日本の製造業は衰退し、情報化社会での敗者となる可能性が高いです。今後も日本の製造業をはじめとした各業種が、国際社会での優位性や競争力を維持しつづけ、デジタル競争で勝つためには、製造業DXによるレガシーシステムをはじめとした新しい変革が求められています。

製造業での課題とDXの必要性

2025年の崖以外にも製造業では多くの課題が発生しており、そのためにも製造業DXの実現が求められています。

製造業のビジネスモデルの変化

製造業は、さまざまな要因により以下のようなビジネスモデルの変化が求められています。

・社会情勢の変化に耐えられるサプライチェーンの強靭化

・脱炭素や人権保護の実現へのサプライチェーン全体での取り組み

・市場ニーズに応じた柔軟な生産の実現

・環境負荷への低減

・産業のデジタルシフトによるものづくりのコアコンピタンスの外部化

製造業のビジネスモデルの変化を実現するには、デジタル技術による事業者全体の取り組みの可視化やサプライチェーン全体での連携が求められています。そのために、DXによる製造業全体最適化の達成が必須と言えるでしょう。

製造プロセスの標準化・サービス化

近年、製造プロセスを標準化・デジタル化し、クラウド技術を活用しながらブラックボックス化した上で、それをサービスとして他社へ展開する企業が出現しました。標準化・デジタル化した製造プロセスは移転やコピーが簡単にできることから、このようなサービスは成長ポテンシャルの高い新興国を中心に展開されています。その結果、いわゆる「日本製」という製造業におけるブランド力や国力の低下の要因を招いています。日本の製造業が国際競争で負けないためには、製造業DXによる個社の付加価値や事業機会の拡大が必要です。

製造業DXが進まない具体的な理由

製造業DXは製造業の競争力や優位性を高めるために必須なものの、製造業の企業の中にはDXがうまく進まない企業も存在します。製造業DXが進まない具体的な理由を紹介します。

トップダウンでの全社的なDX推進を行えていない

製造業のDXが進んでいない理由として、まず当てはまりやすいのがこのケースです。重要な点として、自社の状況に当てはまるかどうかを検討しておきましょう。

企業でのDXが必要であると認識してはいるものの、取り急ぎ表面上の対応だけに終始してしまうというパターンです。

製造業でDXを実現するためには、経営層レベルがまずDXの重要性をしっかりと理解したうえで明確に計画と予算を立て、トップダウン式で全社的な意思統一を行って推進することが重要です。

例えば経営層レベルがDXをきちんと理解していなかったり、DXへの投資意思が弱かったりすると、どうしても場当たり的・おざなりな対応で終わってしまうことがあります。経営層が「やれ」と号令だけをかけてあとは現場任せ、という状況になってしまわないように、DX推進を行うためのチーム構築やミッション設定などを初期の段階で明確化しておきましょう。

DXに関する知識や理解の不足

先述の「DX動向2024」の調査結果では、従業員301人以上の規模の企業がDXに取り組まない、または取り組むか分からないと回答した理由として、もっとも多かったのが「DXに取り組むための知識や情報が不足している」(61.0%)でした。DXでは何を機械化してどう技術を維持するのか、DXのために何をすべきなのかが分からず、DXを進められない企業も多くあります。

DXへ取り組むためのスキルが不足している

DXへ取り組まない理由として次に多かったのが、「DXに取り組むためのスキルが不足している」(57.1%)でした。

日経BP総合研究所の「製造業DXに関する調査」(※2)では、DXスキルを十分に持っていると回答した企業は全体のわずか4.9%にとどまりました。ただし、DXスキルを十分持っていると回答した企業だけでみるとその67%が「DXの取り組みやその準備について進捗がとても順調・まあ順調」と回答しています。

企業のDXスキルの有無が、製造業のDXを推進する重要な要素であることが分かります。

※2 出典:日経クロステック「調査で判明、「DXスキル高い人」に見える製造業DXの景色はまったく異なる」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/10263/

DXへ取り組む人材不足

規模の大きい企業のDXが進まない理由として、「DX の戦略立案や統括を行う人材が不足している」が66.7%、「DX を現場で推進、実行する人材が不足している」が61.9%と、いずれも高い水準となりました。

ITリテラシーの高い人材のリソースがない、人材を育成できるノウハウや環境が整っていない、人材採用のための資金がないといったことでDXが進まないケースも多くみられます。

DX推進のための資金が不足している

DXに取り組まない理由として、「DXに取り組むための資金が不足している」と回答した企業は全体の34.2%に上りました。DX推進のためのシステムやツール導入の高額な初期費用や、DX人材の確保や環境整備にかかる費用が準備できないという背景があります。システムやツールの保守・運用のためのランニングコストも発生するため、DXを推進しても維持や定着ができない場合もあるでしょう。

DX導入のための環境整備がされてない

DXに取り組まない理由として、わずか4.8%と少数回答ではあるものの、「ITシステムのレガシー刷新が困難である」という回答もありました。DXを効果的に進めるには、以下のようなITシステム・環境の整備や刷新が求められます。

・データ収集とデジタル化

・サーバ構築

・社内のITインフラ

・新システムのための社内管理の組織体制

・ストレージの管理

・機密情報の漏洩防止や安全性確保のためのセキュリティ対策

・社内管理の整備

これらについての適切な環境整備は時間とコストがかかり、今現在使用しているITシステムを刷新してまで推進することに、手間や負担を感じてDXを進めない企業も多いといえます。また、社風や風土により、今までのやり方を変えることへの反対意見が多いことで、DXが進まない企業もあるでしょう。

製造業DXを推進するメリット

製造業DXにて業務効率化をはじめとした多くのメリットを得られるものの、自社がDXを推進するメリットが分からずDX推進が頓挫してしまうケースもあります。特に製造業では技術面ではベテランの経験やカンといった面が旧来から重視されてきた背景もあり、「DXよりも今までのやり方の方が効率が良い」といった現場の声も根強く、DXの正しいメリットが浸透しにくい傾向にあります。

以下では、製造業DXの目的の明確化や、従業員側の理解度を上げるためにも理解が必要となる、製造業DXを推進するそもそものメリットを解説します。

生産性の向上を期待できる

DXによって業務の効率化や自動化を行うことで、工数の削減に役立ちます。今まで手作業で行っていたことを自動化すれば、人的ミスの防止や品質の精度向上も期待できるでしょう。

人材不足の解消

DXによって業務や作業の工程数が減ることで、各工程に必要な人数の削減につながります。業務に使用するデータや情報などをデータベースで一元管理、共有すれば、作業や業務の標準化にもつながり、属人化も防止できるでしょう。全体的な人材不足の解消も期待できるでしょう。

経営体制の強化

DXによってデータの一元化が実現すれば、投資や人員配置に活用できる効率的な分析が可能です。AIを活用し受注予測を出すことで、生産管理や計画立案などの戦略にも活用できるでしょう。経営体制の強化にも、製造業DXは有効です。

機会損失を防止

製造業DXによって製品の異常検知システムを導入すれば、手作業や目視では検知が難しい規格外などの生産不良を自動ではじくことも可能です。在庫管理をシステム化し、リアルタイムで在庫状況を把握すれば、在庫切れによる欠品も減少できます。製品不良や欠品による受注や販売機会損失を防げるようになるのも、製造業DXからもたらされるメリットのひとつです。

製造業DXを企業全体で実現するためにまず取り組むべきこと

企業全体のシステムや構造そのものをいきなりすべてデジタル化・刷新するのは、大変難しいことです。企業で製造DXを推進するために、まず取り組むべきことを順に解説します。

社内のDXに対する理解促進

まずDXに対する社内や組織全体での意義の理解を深めましょう。DXの意義を従業員が理解すれば、社内でDXがもたらす価値を共有できます。最先端のシステム導入や業務改革などにも理解を得られ、スムーズな推進や定着につなげられるでしょう。

DXの理解を深めるためには、社内研修や関連資格の取得推奨、DXのための社内セミナーの開講といったDXリテラシーの向上のための取り組みが必須です。研修や資格取得、従業員の意識向上を会社が支援する体制を構築しましょう。

人材の確保と育成

DXの推進には、ITやデジタルに関する知識やスキルを持つ人材が不可欠です。外部講師の招集や講座の開催といったデジタル技術に精通したIT人材社員の育成、または必要に応じた外部の人材活用や採用を検討しましょう。

DX導入の目的やメリットの明確化

自社における製造業DX導入目的やメリットを明確化しましょう。目的やメリットが不明瞭なままでは、DXへの取り組みそのものが目的になり、スムーズな定着につながらない可能性があります。数値やデータを用いて具体的かつ可視化できるかたちで、従業員にとって魅力的だと感じられるDX導入の目的やメリットを提示できるようにしましょう。

業務環境のオンライン化

データのクラウド化や一元管理などは、DX推進に必須の取り組みです。現在オフラインで管理している業務データは、オンライン化を進めましょう。資料やスケジュールなど、基本的かつ移行しやすいデータやシステムから、クラウド化やオンライン化を進めるのがおすすめです。

現場とデータを結びつけておく

データは現場の状況を客観的に把握し、改善策を立案するための重要な手段となります。あらかじめ、現場とデータを結びつけられる仕組みを構築しておきましょう。たとえばリアルタイムで生産状況やラインの稼働状況といったデータを収集するためにIoTを活用する、などの方法があります。

製造業DXの進め方や手順

製造業DXを推進するための具体的な進め方を、手順に沿って解説します。

現状を把握し方向性を決める

まずはDX戦略の進め方を明確にするために、以下のような現状把握の取り組みを行いましょう。

・業務の担当部署の把握

・使用しているデジタルツールの整理

・業務過程の洗い出し

・業務過程ごとの課題把握

・従業員の要望の整理

洗い出しや整理によって現状を把握すると、DX化のビジョンや方向性が明確になります。

DXを前提とした企業ビジョンを共有する

DXによって実現したいイメージを社内全体で共有すると、DXに対する従業員の理解や協力を得やすくなります。DX推進の目的やDX化のビジョンを組織全体に分かりやすく提示しましょう。

デジタルツールについての理解を深める

自社に適した、長期的に活用するデジタルツールを選定するためには、デジタルツールに対する理解が求められます。自社に適したデジタルツールを選定し、製造業DXの推進や運用を円滑に進めましょう。

DXを推進する組織やチームをつくる

DX推進のリーダーとなる人材や、専門の組織を立てると製造業DXの推進がスムーズになります。明確な意図を持ったチームが先導しながら組織的に推進活動を行うことは、社員の協力や理解を得る上でも有効です。

優先順位を検討する

成果が上がりやすく、導入の難易度が低いものから優先的にDXを進めましょう。機器やツールの導入は一括でまとめて刷新することは理想的ですが、費用面や現場の定着面でも現実的ではありません。優先順位をつけて段階的に導入を進めましょう。

製造業DXを成功させるためのポイントや注意点

製造業DXを成功させるために覚えておきたい、ポイントや注意点を順に解説します。

DX導入後もPDCAサイクルを回していく必要がある

製造業DXは、導入して終わりではなくPDCAサイクルを回して効率的に運用する必要があります。DX導入後、効果測定や課題の洗い出しを行い、必要に応じて改善を行いましょう。DXは管理と業務改善を行ってこそ、生産性向上などの効果を得られます。

スモールスタートを心がける

いきなりすべての業務をDXしようとすると、現場の負担が大きくなります。一部の業務から始めるスモールスタートを心がけましょう。たとえば請求書や納品書などのペーパーレス化を進めるなど、取り組みやすいものからDXを徐々に導入します。

「守りのDX」から取り組む

大規模な変革やゼロからのビジネスモデル構築を伴うような、いわゆる「攻めのDX」は専門的な知識や高度なスキルが必要なため難易度が格段と高くなります。既存の一部業務の効率化、コスト削減などをメインとする「守りのDX」なら、現場の混乱を最小限にしつつ、業務フローを大きく変えないまま実践できるでしょう。

自社に合わせたゴール設定をする

DXを成功させるためには、自社に合ったゴール設定が不可欠です。DXの目的や取り組みは企業ごとに異なります。自社に合わせたゴールを設定し、製造業DXに着手しましょう。

会社としての全体最適を目指す

部門ごとの最適化ではなく、会社全体としての最適化を目指すことが重要です。たとえスモールスタートで一部業務から進めていく場合にも、常に全体最適への影響を考えておきましょう。

ただバラバラと部門ごとに最適化を進めると、全体としての非効率やムダが生じる可能性があります。

DXに優れたシステムを導入する

全社的にDXを進めたいなら、DXに優れたシステムを導入するのがおすすめです。部署ごと・業務ごとに部分最適されたシステムが別々に存在している状態であると、業務ごとのデータ連携に工数がかかったり、情報共有に齟齬が生じたりしやすくなります。自社の業務に合ったシステムを最初から導入しておくことで、最終的にみても全体最適された効率的な業務体制の構築が期待できるでしょう。

電通総研では、製造業におけるCRMシステム構築をはじめとした支援ソリューションを提供しています。たとえば現地の状況把握によって作業員や手配部品の調達を円滑にしたり、基幹システムとの連携によって他システムを起動させることなく請求書を発行したりといったことが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

課題や進まない理由を把握し製造業DXを実現しよう

製造業DXの現状や進まない理由、進める手順や主な注意点、ポイントなどを解説しました。製造業企業における状況や課題は企業ごとに異なります。自社で発生している課題やDXで実現したい目的を明確にした上で、製造業DX推進に取り組みましょう。

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