目次
「お電話ありがとうございます。○○カスタマーサポートでございます。」
この一言から始まる数百万件の会話が、日々コールセンターで交わされています。顧客の声、オペレーターの対応、会話の流れ──これらはすべて、企業と顧客の関係性を映し出す“生きたデータ”です。
しかし、これまでのコールセンター運営では、こうした音声データの多くが「記録されるだけ」で終わっていました。録音はされても、聞き返すには時間がかかり、分析には人手が必要。結果として、現場の改善や経営判断に活かしきれていないケースが少なくありません。
そこで、必要になってくるのが「音声認識技術」の活用です。
音声認識とは、会話をリアルタイムでテキスト化し、分析や自動処理に活用できる技術です。
今でこそ当たり前のように導入されている音声認識の技術ですが、これにより、コールセンターの運営は「聞く」運営から「活かす」運営へ大きく進化しました。
音声認識技術を活用することで様々なことが可能になります。例えば、生成AIと連携することで、通話内容の要約、FAQの自動提示、報告書の自動作成といったことが可能です。VOC分析ツールと組み合わせれば、顧客の声を定量的に把握し、商品改善やマーケティング戦略に活かすこともできます。AIやVOC分析ツールと連携することで、音声認識技術は単なる文字起こしや顧客との会話の備忘としてだけではなく、業務改善・品質向上・顧客体験の最適化を実現する“情報活用の起点”として機能するようになるのです。
本記事では、まず音声認識に関する基本的な理解をしていただくためにも、音声認識技術の仕組みをわかりやすく解説します。その次にコールセンターにおける活用事例のこれまでとこれからを紹介し、さらには導入を成功させるための設計・運用のポイント、よくある失敗例までを網羅的に解説します。最後には参考情報として主要な音声認識ツール5選を紹介します。
これから音声認識の導入を検討する方にも、すでに導入済みでさらなる活用を目指す方にも役立つ実践的な内容となっておりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
音声認識とは、人間の話す言葉を機械が聞き取り、テキストに変換する技術です。スマートフォンの音声入力や、スマートスピーカーの操作など、今では私たちの生活に当たり前のように浸透しています。
技術的には、以下のようなステップで処理が行われます。初心者には少しとっつきにくいかもしれませんが、なるべく嚙み砕いて分かりやすく解説しておりますので、是非あきらめず最後まで読んでいただければと思います。
① 音声を取り込む(音のデータを集める)
まずは、人が話した声をマイクなどで録音します。このときの音は「アナログ信号」と呼ばれるもので、コンピューターではそのまま使えません。そこで、音を「デジタル信号」に変換します。
また、周囲の雑音(ノイズ)や、声の反響(エコー)を取り除く処理も行います。これにより、コンピューターが聞き取りやすい、きれいな音声データになります。
② 音を「音のかたまり」に分ける
次に、録音した音声を「音のかたまり(音節や発音の単位)」に分けていきます。たとえば「こんにちは」という言葉は、「こ・ん・に・ち・は」という音の集まりです。
このステップでは、話し方のクセやスピード、声の高さなどを考慮しながら、「この音はどんな言葉の一部か?」を判断していきます。
③ 言葉として理解する
音のかたまりがわかったら、それを「意味のある言葉」に変えていきます。
たとえば、「かみ」と聞こえたとき、それが「紙」なのか「神」なのか「髪」なのかは、前後の言葉の流れ(文脈)によって判断されます。
このステップでは、たくさんの会話データを学習したAIが、「この場面ではこの言葉が自然だ」と判断して、正しい言葉を選びます。
④ 文章として整える
最後に、選ばれた言葉を文章として整えます。
「、」や「。」などの句読点をつける
話している人が変わったら、話者を分ける
名前や会社名などの固有名詞を正しく表示する
こうして、話した内容が読みやすい文章として完成します。
近年では、ディープラーニングの進化により、認識精度が飛躍的に向上し、下記のようなこともできるようになりました。特に日本語のような文脈依存の強い言語でも、自然な文章としての変換が可能になってきています。
これらの機能が、コールセンター業務にどのような価値をもたらすのか──次章から具体的に見ていきましょう。
コールセンターにおける品質管理は、顧客満足度やブランドイメージに直結する重要な業務です。ですが従来はSVが通話録音を聞き返し、対応内容を評価するという人力中心のプロセスでした。そのため評価基準はあいまいで、定性的な評価しかできず、かつとても手間のかかる業務でした。
音声認識を導入することで、品質管理は定性的な評価から定量的な分析へと進化します。トークスクリプト遵守率、NGワード検出、感情トレンド分析、応対時間と話速のバランスなどが自動で取得・分析され、ダッシュボードで可視化されます。
これにより、問題点の早期発見、対応スクリプトやFAQの改善、オペレーター教育の精度向上、顧客満足度の向上といった好循環が生まれます。また、評価は音声認識ツールが自動で実施してくれるので、人間がすべきことはその結果を確認し、判断することだけです。時間を割いて行っていた業務が効率化され、その分他の業務に時間を割くことができます。
ここまでが音声認識を品質管理の観点から活用した方法です。一昔前ならこれだけで「音声認識の活用が十分にできている」と言えたかもしれません。ただ、音声認識を使用した品質管理は今ではもう当たり前のように行われており、かつ様々な技術が進歩してきている昨今においては、音声認識の活用としてこれだけで十分とは言えません。これから必要になってくる、あるいはもうなりつつある音声認識の活用について、さらに2つ紹介させていただきます。
生成AIとの連携を実施することでさらなる業務効率化が可能となります。例えば、通話中の会話内容に応じて適切なFAQやマニュアルを自動表示される機能があったらどうでしょうか?これも生成AIと組み合わせることで可能となります。音声認識で文字起こしされたテキストデータを生成AIが判断し、社内のFAQやマニュアルから、現在の文脈に応じて最適なものをオペレーターに提示する。そんなことが可能です。生成AIによっては元々音声認識の機能が備わっているものもあるので、比較的簡単に導入できるケースも多いです。
また、通話後の対応履歴入力や報告書作成も、音声認識によるテキスト化と生成AIによる要約機能を組み合わせることで効率化できます。これらの入力業務はコールセンター業務にとってとても大切な業務であるにもかかわらず、オペレーターに大きな負担となっています。そのため内容が雑になる、あるいはそもそも入力作業自体が適切に行われずに放置されてしまうケースもあるようです。そこで音声認識、生成AIにより入力業務を自動化することで、オペレーターの負担軽減だけでなく、その分の時間を使って別の着信を受けることができるため、対応件数の増加につながります。
その他にも、商品名やサービス名の認識により関連情報を提示したり、NGワード検出によってSVへリアルタイム通知を実施したり、音声認識と生成AIの組み合わせで実現できる業務効率化・オペレーターリアルタイム支援の例は多くあります。コールセンターの現場では、1件1件の対応が時間との戦いです。限られた時間の中で、正確かつ丁寧な対応を求められるオペレーターにとって、音声認識は強力な“業務支援ツール”になります。
そのほかの活用方法としては、VOC分析への活用があります。VOC分析とは、顧客の声(Voice of Customer)を収集・分析し、商品やサービスの改善、マーケティング戦略の最適化などに活用する手法です。顧客のニーズや不満、要望などを把握することで、顧客満足度の向上や新たな価値創造を目指します。コールセンターには顧客の声が日々大量に届きます。顧客の声には潜在的なニーズや不満、要望などが山積しています。いわば「宝の山」なのです。顧客満足度向上を目指すなら、これを使わない手はありません。
VOC分析には専用のツールが必要となりますが、分析には当然、顧客との会話の内容をインプットしてあげる必要があります。とはいえ、顧客との会話の録音データそのままVOC分析ツールにインプットすることはできません。録音データをテキストデータに変換するプロセスが必要になります。そのため、VOC分析には音声認識が必要になってくるのです。
さらに、過去の通話履歴をもとに顧客ごとの対応履歴や傾向を把握することで、よりパーソナライズされた対応が可能になります。これにより、顧客は「覚えてくれている」「理解してくれている」と感じ、企業への信頼感が高まります。
音声認識技術の導入は、単なるツールのインストールではなく、業務のあり方そのものを見直す「業務改革プロジェクト」です。さらに生成AIとの連携が必須になってきている近年においては、「AIを活用した業務改革の起点」とさえ言えます。ここでは、これから必須になる生成AIや要約技術を前提にした、最新の導入設計と運用体制のポイントを5つの観点から詳しく解説します。
1. 目的の明確化と“成果の定義”
導入の第一歩は、「なぜ音声認識を導入するのか?」という目的の明確化です。従来の「品質向上」「業務効率化」に加え、AIによる要約・分析を活用した「意思決定支援」や「顧客体験(CX)向上」など、より戦略的な目的設定が求められます。
たとえば・・・
品質向上 → NGワード検出率、スクリプト遵守率
業務効率化 → 報告書作成時間の短縮、FAQ表示の自動化
CX向上 → 顧客感情の分析、VOC要約の精度
意思決定支援 → ダッシュボードによる傾向把握、経営層向けレポートの自動生成
よくある失敗例・・・
「最新技術だから導入したい」という曖昧な理由で現場が混乱
成果指標が定義されておらず、導入後の評価ができない
2. 業務フローとの接続設計
音声認識は、既存業務に自然に組み込まれる形で設計することが重要です。生成AIとの連携により、単なる文字起こしではなく、業務に活かされる“意味あるデータ”として活用されます。
通話録音 → 音声認識 → テキスト化 → 要約 → CRM登録
通話中のキーワード検出 → FAQ表示 → オペレーター支援
通話後の要約 → BIツール連携 → マネジメント活用
音声認識結果が業務に活かされず、ただの記録で終わる
CRMやFAQとの連携が不十分で、手作業が残る
3. 現場の巻き込みと“使いやすさ”の設計
AIツールは、SVやオペレーターが日々使うものです。現場の理解と納得がなければ定着しません。導入時には、現場の声を反映したUI設計と、役割に応じた教育が不可欠です。
パイロット導入で現場のフィードバックを収集
UI/UXは現場の操作感を重視して設計
SV向け:分析・改善の使い方、オペレーター向け:業務支援の使い方
現場に説明なく導入され、「監視ツール」と誤解される
操作が複雑で使いこなせず、放置される
4. 改善サイクルの構築とAIの育成
AIは導入して終わりではなく、継続的に学習・改善していく必要があります。通話データをもとに要約精度やFAQの精度を検証し、定期的なモデル更新やフィードバックループを構築することで、運用の質を高めていきます。
週次レビュー:SVが通話データを確認し、改善点を抽出
月次レビュー:マネージャーが傾向を分析し、施策を検討
四半期レビュー:経営層と連携し、KPIや運用方針を見直す
導入後に「使いっぱなし」で改善されない
レポートは出るが、誰も見ておらず、改善アクションに繋がらない
5. セキュリティ・プライバシーへの配慮
音声認識では、顧客の発言内容をテキスト化するため、個人情報や機密情報が含まれる可能性があります。特に生成AIによる要約や分析では、より高度な情報処理が行われるため、従来以上にセキュリティ対策が重要です。
音声データの暗号化とアクセス制限
個人情報の自動マスキング機能の活用
クラウド型/オンプレミス型の選定(社内ポリシーに応じて)
個人情報保護法や業界ガイドラインへの準拠
氏名や住所がそのままテキスト化され、社内共有されてしまう
セキュリティポリシーと合わず、導入後に停止される
このように、音声認識の導入は「ツール選定」だけでなく、「目的設計」「業務接続」「現場巻き込み」「運用体制」「セキュリティ対策」の5つの柱を意識することで、成果につながるプロジェクトになります。
かつて音声認識は「通話の文字起こし」を目的とした技術でした。しかし現在では、AIやVOC分析ツールとの連携を前提とした“戦略的な情報活用”へと進化しています。音声認識は、単なる記録ではなく、企業の意思決定や顧客体験向上に直結する「データの起点」としての役割を担っています。
音声認識は“データの入口”である
音声認識によって得られるテキストデータは、生成AIによる要約、FAQ自動生成、通話履歴のパーソナライズ分析など、さまざまな業務支援に活用されます。これにより、オペレーターの負担軽減だけでなく、対応品質の均一化、顧客満足度の向上が実現します。
VOC分析との連携で“顧客の声”を経営資源に
音声認識は、VOC分析の前提技術でもあります。顧客との通話内容をテキスト化し、VOCツールに連携することで、顧客のニーズや不満、要望を定量的に把握できます。これにより、商品改善やサービス設計、マーケティング戦略の最適化が可能になります。
現場から経営までをつなぐ“情報の架け橋”
音声認識は、現場の対応を可視化し、SVによる教育や支援に活かされるだけでなく、管理者が傾向を分析し、経営層が意思決定に活用する──そんな情報の流れをつくる“架け橋”です。生成AIとの連携により、通話内容の要約や感情分析、トレンド抽出が自動化され、より迅速かつ的確な判断が可能になります。
小さな導入から、大きな変化へ
「うちのセンターにはまだ早い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、音声認識は段階的に導入・活用範囲を広げることで、無理なく定着し、成果につながります。
まずは品質管理の一部からスタートし、
次に報告業務の自動化やFAQ連携へ拡張していき、
最終的にはVOC分析やパーソナライズ対応へつなげていく。
このように、音声認識は“聞こえなかった声”を“活かせる情報”に変える技術です。AIとの連携によって、単なる記録から、企業の未来をつくる力へと進化しています。
最後に、国内で広く使用されている音声認識ツールについての紹介です。
音声認識技術は、もはや「文字起こし」だけのツールではありません。現在では生成AIとの連携を前提とした音声認識ツールが主流となり、通話要約、FAQ提示、VOC分析、感情解析など、コールセンター業務の高度化を支える中核技術へと進化しています。ここでは、生成AIとの連携を前提に設計された最新の音声認識ツール5選を紹介します。もしご興味のあるツールがありましたら、各HPにて詳細の情報を入手いただければと思います。
1. AmiVoice Communication Suite 4.4(アドバンスト・メディア)
特徴:音声認識と生成AIを融合した国内最先端のソリューション。
主な機能:通話内容のリアルタイム要約、NGワード検出、感情分析、CRM連携、後処理時間の削減。
注目ポイント:生成AIによる「後処理時間ゼロ」を目指した設計。セキュリティ対策も強化されており、企業の導入障壁を下げている。
2. MiiTel(RevComm)
特徴:音声認識+生成AIによる通話分析に特化したクラウド型ツール。
主な機能:通話の自動要約、スコアリング、感情トレンド分析、FAQ連携、VOC分析。
注目ポイント:生成AIによる「応対の質の可視化」と「改善提案」が強み。営業・サポート両面での活用が進んでいる。
3. COTOHA Voice Insight(NTTコミュニケーションズ)
特徴:NTT研究所の技術をベースにした高精度音声認識+生成AI連携。
主な機能:通話要約、キーワード抽出、NGワード検出、感情分析、セキュアなクラウド運用。
注目ポイント:NTTグループのインフラと連携しやすく、大規模センター向けに最適。
4. transpeech(トランスコスモス)
特徴:BPO現場の知見を活かした音声認識+生成AIソリューション。
主な機能:通話要約、ナレッジ支援、クレーム予測、FAQ自動生成、VOC分析。
注目ポイント:生成AIによる「ナレッジの自動提示」が強力。オペレーター支援に特化した設計。
5. Google Cloud Contact Center AI(CCAI)
特徴:Googleの大規模言語モデル(LLM)を活用したグローバル対応型ソリューション。
主な機能:Dialogflowによる自動応答、Speech-to-Text、Agent Assist、リアルタイム要約。
注目ポイント:多言語対応・グローバル展開に強く、生成AIによる自然な対話生成が可能。
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