マーケティングの分析には、フレームワークの活用が重要です。フレームワークを使って客観的に情報を扱うと、マーケティング施策の効果を高められます。マーケティングに用いるフレームワークには多様な種類があり、それぞれ用途が異なる点に注意しましょう。
この記事では、マーケティング分析のフレームワークを活用シーンごとに解説します。
目次
はじめに、マーケティング分析に用いるフレームワークの基礎知識から確認しましょう。
マーケティングの分析に使うフレームワークとは、施策の分析や意思決定を客観的に行うための枠組みです。フレームワークにデータを当てはめることで、マーケティングにおける現状を浮き彫りにできます。個人の好みや勘といった主観に頼らずに施策を決められるため、マーケティングに限らず経営戦略や製造工程などの多様なビジネスシーンで活用されています。
尚、フレームワークが「何をどう整理しながら分析するか」といった思考の枠組みのことであるのに対し、その枠組みとしてのフレームワークがあったうえで、「具体的にどう分析するか」という部分は別途「分析手法」と呼び、状況に応じて最適な手法を選択することが一般的です。
フレームワークを活用すると、自社のビジネス環境や市場におけるポジションを整理できます。自社の商品・サービスの強みや弱み、潜在顧客などのターゲット層の把握も可能です。マーケティングのフレームワークは、市場などの環境分析や顧客分析、戦略策定などの役割に応じて多くの種類があります。いずれの種類でも自社の現状を正しく把握したうえで課題を見つけられるため、すばやい課題解決が見込めます。
フレームワークを利用する場合、マーケティング施策を実行するまでの流れがスムーズになります。個人の思いつきや属人的なやり方で作業を進めず、フレームワークを根拠としてデータの収集や分析を行います。施策のプレゼンや意思決定がスピーディになり、プロジェクトを効率的に進められるでしょう。さらに、リソースの配分や施策の根拠となることから、社内の理解を得やすくなります。
フレームワークを利用する際は、依存に注意が必要です。たとえば、本来はフレームワークに該当しない状況であっても、無理やりフレームワークに当てはめてしまうケースがよくあります。消費者の行動や市場動向がフレームワークに合致しない状況は、それほど珍しくありません。フレームワークの使用自体が目的とならないよう、あくまでも分析手段の1つとして適切に活用することを心がけましょう。
市場全体や競合他社などの環境分析に向いているマーケティングフレームワークは、次の5種類です。
PEST分析とは、以下4つの視点で自社のマクロ環境を理解するフレームワークです。
マクロ環境 とは、企業がコントロールできない外部要因です。上記4つの要因は自社とは無関係に変動する一方で、事業に大きな影響を与える可能性があります。PEST分析によってマクロ環境が自社に与える影響度合いを測れるため、事業上のリスクや新規参入のチャンスといった将来的な市場動向を予測できます。
3C分析とは、自社に関する経営環境のうち、外部環境を「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」、内部環境を「Company(自社)」に区分して情報を整理するフレームワークです。市場の規模・動向、顧客ニーズ、消費行動、競合他社の戦略やシェア、自社の特徴から、ビジネスの成功要因「KSF(Key Success Factor)」を探ります。KSFにもとづいて事業の方向性を定めることで、力を入れるべき商品・サービスや顧客層を認識できます。
なお、マクロ環境を扱うPEST分析に対して、3C分析の対象はミクロ環境 です。ミクロ環境とは、自社の動きによって一定のコントロールが可能な要因であり、市場や競合が当てはまります。
SWOT分析とは、外部環境と内部環境の両面から自社の現状を洗い出すフレームワークです。次の4つの要因を評価します。
■内部要因
■外部要因
SWOT分析により、マーケティングのリソースを集中させる商材や施策の改善点を明らかにできます。さらに、分析対象は商材だけでなく、保有している情報や資産、組織体制も評価の対象になります。そのため、商材の強み・弱みに加えて、部署間の連携不足や業務効率の低さといった組織上の課題の発見も可能です。
ファイブフォース分析とは、ミクロ環境における競争要因を5つに分けて自社への脅威の度合いを測るフレームワークです。自社へ影響をおよぼす脅威がわかり、リスク対策を講じたうえでマーケティング戦略を立案できます。ファイブフォース分析で扱うミクロ環境は、下記の5つです。
VRIO分析とは、「Value(経済的価値)」「Rarity(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の4つの視点により自社の経営資源を分析するフレームワークです。Value(経済的価値)では、経営資源をどのように活用して顧客へ価値を提供しているかを評価します。Rarity(希少性)は、競合他社と比べた場合の自社商材の独自性を評価する項目です。Imitability(模倣可能性)で自社商材の模倣されやすさを判断して、Organization(組織)では経営資源の活用・持続できる体制の有無をチェックします。
VRIO分析の経営資源は、商品・サービスや人材、データ、不動産、技術、ブランドイメージ、組織体制といった幅広い存在を指します。自社の内部環境の分析に特化しており、競合他社と差別化できるポイントや自社の価値を発見できるでしょう。
消費者の行動モデルによって顧客分析を行える5つのフレームワークを紹介します。
AIDMA(アイドマ)とは、消費者の購買行動(商品・サービスを認知してから 購買するまで)の流れを想定したフレームワークです。AIDMAは次の5つの頭文字を取っており、消費者の行動を段階的に示しています。
各段階の消費者に向けてそれぞれマーケティング活動を行うことで、購買まで段階を進められます。なお、AIDMAはやや古い行動モデルであり、消費者のインターネット利用を想定していません。しかし、人間の心理プロセスの基本を定義しているため、現代でも知っておくべきフレームワークと言えます。
AISAS(アイサス)とは、インターネットが普及した現代のビジネス状況を反映して顧客の行動を分析するフレームワークです。AIDMAの発展版であり、下記の5段階で消費者の行動を分けます。
AISASは消費者のインターネット利用を前提としており、企業側もWeb上の施策にリソースを割く必要があります。たとえば、Attention(注意)の施策ではWeb広告やSEO対策の実施が求められます。
SIPS(シップス)とは、SNSに代表されるソーシャルメディアの利用を組み込んだフレームワークです。次の4つの過程で構成されます。
SIPSは、購買に至らなかった消費者の「参加」行動も重視している点が特徴です。消費者がソーシャルメディア上で情報を共有することで、コミュニティを超えて情報が拡散されます。情報が広まるほど商品・サービスを知る人が増え、結果的に購買も増加します。
DECAX(デキャックス)とは、コンテンツマーケティングを想定したフレームワークです。消費者の行動を以下5つに分けて考えます。
DECAXは、コンテンツを発信して消費者からの信頼を得る過程が含まれます。そのため、オウンドメディアやブログ、動画、SNSによる有益なコンテンツの継続的な提供が重要です。
AMTUL(アムツール)とは、消費者がリピーターになるまでの過程を分析するフレームワークです。次の5つのプロセスから成ります。
AMTULは、顧客ロイヤルティやブランディングの向上を狙うマーケティング施策に向いています。最後のLoyalty(愛用)に達した消費者は顧客ロイヤルティが高く、アップセルやクロスセルによって利益拡大が見込めます。
購買行動によって顧客を分析する場合、以下5つのマーケティングフレームワークが適しています。
コホート分析とは、顧客の行動を特定のグループごとに分けて、各グループの時間経過による行動変化を分析するフレームワークです。たとえば、アプリケーションのインストール月が同じユーザーを同一グループに分けたと仮定します。次に、各グループの離脱率を比較して、離脱率が高いグループを分析することで離脱の原因特定が可能です。
コホート分析は各グループの差異や改善するべきポイントを可視化できるため、マーケティング施策の効果検証やリテンションレート(顧客維持率)の改善に役立ちます。アプリケーションだけでなく、Webサイトのユーザー、商品・サービスの購入者、ECサイト利用者、有料会員サービスの登録者のように多様な事例に応用できます。
RFM分析とは、商品やサービスを購入した時期・金額・頻度の3つの観点で顧客を分類するフレームワークです。以下の基準で顧客を評価します。
3つの指標の点数によって顧客を「優良顧客」「見込み顧客」「新規顧客」「離反顧客(休眠顧客)」のように分類して、セグメントの特徴に合わせた施策を立てます。例として新規顧客にリピーターになってもらいたい場合、クーポンの配布やアフターフォローなどの施策が効果的です。
CPM分析とは、「累計購入金額」「購入回数」「離反期間」によって顧客を10セグメントに分けるフレームワークです。前項のRFM分析と似ていますが、CPM分析は長期的なリードナーチャリングを得意としています。さまざまな顧客層へ最適化したアプローチを続けて、優良顧客へと育成します。したがって、中長期的に利益を拡大したい場合に有効な手法です。
対するRFM分析は優良顧客を最重視しており、短期的に利益を上げたい場合に適しています。一方で、優良顧客から離反顧客へと顧客のセグメントが変わると、継続して接触できなくなるといった課題がありました。CPM分析の併用により顧客のセグメントが変わった後もアプローチを続けられるため、優良顧客へと復帰させやすくなります。
CTB分析とは、「Category(カテゴリー)」「Taste(色やデザインなどのテイスト)」「Brand(ブランド)」の3つの指標で顧客をグループ分けするフレームワークです。各基準の詳細は以下の通りです。
上記の要素には顧客の趣味嗜好が反映されているため、グループごとに顧客の好みや購買予測を反映した施策を実現できます。
行動トレンド分析とは、顧客の購買行動と時期の関係性を分析するフレームワークです。「どのシーズンにどのような顧客がどの製品を購入するのか」を明らかにします。商品・サービスのトレンドの時期に特定の顧客層に向けて販促活動を行えば、プロモーションの費用対効果を高められます。
行動トレンド分析を実施する際は、はじめに商品やサービスの通年の売上データを分析して売上が伸びるトレンドの時期を確認しましょう。トレンドの時期に商品・サービスを購入した顧客を年齢や性別、地域などの特徴に沿ってグループ化します。購入の割合が高いグループを算出して、トレンドの時期に合わせてプロモーションを展開します。
マーケティング戦略を策定する際は、次の7つのフレームワークの利用がおすすめです。
STP分析とは、以下3つの段階でマーケティング戦略を構築するフレームワークです。
STP分析によって、自社が狙うべき市場および顧客層の把握が可能です。また、顧客のニーズや最適なアプローチ方法、競合他社にはない自社商材の価値を明確にできます。
4P分析とは、「Product(製品・サービス)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販促活動)」の4つの項目により、マーケティング戦略の方向性を定めるフレームワークです。企業目線の手法であり、複数のフレームワークや分析方法を組み合わせる「マーケティングミックス 」で使用するケースが一般的です。具体的な分析内容は、以下の一覧表をご確認ください。
4C分析とは、「Customer Value(顧客価値)」「Cost(コスト)」「Convenience(利便性)」「Communication(コミュニケーション)」の4つの項目で自社の製品・サービスを分析するフレームワークです。顧客目線のフレームワークであり、多くの場合で4P分析とともにマーケティングミックスに用いられます。4C分析の詳細は、次の通りです。
SAVEとは、「Solution(解決策)」「Access(利便性向上)」「Value(価値提供)「Education(教育)」の4つの観点からマーケティング戦略を決めるフレームワークです。顧客が抱える課題を特定して、「自社の商品やサービスがどのように課題を解決するのか」を明確にします。また、顧客が自社の商品・サービスを知る経路やリードナーチャリングの手法についても検討します。
SAVEがよく使われている領域が、BtoBマーケティングです。BtoBマーケティングは、商品・サービスの機能や価格より「どのような課題を解決できるのか」といった価値や費用対効果が重視される傾向にあります。したがって、製品の価格や性能に重きを置く4P分析の代わりに、SAVEを活用する場面が増えています。
バリューチェーン分析とは、製品が顧客に届くまでの各工程を分析するフレームワークです。原材料の調達、生産、物流、プロモーション、販売、購買といった各工程のうち付加価値を生み出しているポイントを明らかにして、さらに付加価値を高めるための戦略を考案します。
バリューチェーン分析を行う際は、企業活動の「主活動」と「支援活動」への区分が必要です。製造業であれば、原材料の調達から購買までが主活動になり、経理や人事といったビジネス活動をサポートする領域が支援活動に該当します。バリューチェーン分析を実行することで、自社の競争優位性や付加価値への理解を深めたうえでマーケティング戦略を立案できます。
PPM分析とは、経営資源を分配する優先順位付けに役立つフレームワークです。「市場成長率」と「市場占有率(シェア率)」の2つの指標を掛け合わせて、自社の商品・サービスを以下4つのセグメントに分けます。
このように商品やサービスを区分することで、マーケティング施策の優先対象を決定できます。
プロダクトライフサイクルとは、製品やサービスの売上推移を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階に分けるフレームワークです。段階に応じて適切な戦略を立て、マーケティング施策の効果を最大化します。
たとえば、導入期は広告宣伝費にリソースを優先するべき時期と言えます。市場へ商材を投入したばかりであるため、認知度を上げるためのマーケティング施策が重要です。また、顧客とのコミュニケーションを積極的に行い、既存製品よりも優れている点や解決できる課題などのポイントをアピールする必要があります。
ここまで紹介したフレームワークによって多くのデータを得た場合、情報をまとめる必要があります。情報を整理する際は、以下4つの思考方法を活用してみてください。
ロジックツリーとは、特定の課題を構成する要因を導き出すための思考方法です。1つの課題に含まれる要因を階層化します。問題解決の「Howツリー」、KPIを細分化する「KPIツリー」、事象の要素を紐解く「Whatツリー」などの種類があるため、目的に応じて使い分けましょう。
MECE(ミーシー)とは、複雑な課題をわかりやすく分解して、解決策を考案するための論理的な思考方法です。「Mutually Exclusive Collectively Exhaustive(漏れなく、ダブりなく)」の名称の通り、課題の要因を切り分ける際に重複や抜け漏れがないように情報を整理します。
なぜなぜ分析とは、特定の課題に対して「なぜ」の問いを段階的に繰り返す思考モデルです。課題の根本的な原因を発見できるため、Webサイトの構造やプロモーション活動における「なぜコンバージョンしたのか」「なぜ成果につながらなかったのか」といった潜在的な要因を特定できます。
SMARTとは、適切な目標を設定するための考え方です。次の5つの項目に沿って、目標を決めます。
上記5つを押さえて設定することで、効果的な目標を作れます。
実際にマーケティング分析にフレームワークを使う際は、以下5つの注意点に気をつけましょう。
フレームワークはあくまで手段の1つに過ぎず、施策の直接的な答えがわかるわけではありません。フレームワークは情報を整理したり、現状を把握したりするツールです。分析結果をもとに施策を考えるスキルが必須となるため、フレームワークの利用を目的化して頼りすぎないように注意しましょう。
フレームワークには数多くの種類があるため、適切な手法を選ぶ必要があります。自社のビジネス環境や事業、顧客層、課題などの条件に合うフレームワークを選びましょう。意味のある結果を得られなかった場合、他のフレームワークを使用して再検証してみてください。また、複数のフレームワークを組み合わせる方法も効果的です。
使用中のフレームワークを過信して使い続けず、定期的に検証しましょう。市場やトレンド、経済要因、法規制、技術などの変化により、使用しているフレームワークが合わなくなる可能性があります。自社を取り巻くビジネス環境の変化に合うフレームワークであるかを確認して、陳腐化していた場合は新しいフレームワークへ変更しましょう。
フレームワークの分析結果は、最新状態に保ちましょう。フレームワークで得られる結果は検証時点の情報であり、永久に使い回せるわけではありません。フレームワークの分析結果は施策に反映して、効果検証と改善のPDCAサイクルを何度も回すものです。施策の変更によってビジネスに変化が起きた場合、都度フレームワークで検証して最新のデータを得ましょう。
フレームワークに当てはめる情報は、客観性が重要です。不明確な情報や個人の願望をフレームワークに落とし込むと、無意味な分析結果になってしまいます。戦略の方向性が迷走する一因になりかねないため、フレームワークには信憑性の高いデータのみ活用しましょう。
とはいえ、フレームワークに活用できるデータが少なかったり、システムがサイロ化して情報の所在がわからなったりする場合もあります。こうしたケースでは、情報を一元管理する「CDP(顧客データプラットフォーム)」や、マーケティングの分析を自動化する「MA(マーケティングオートメーション)」の導入がおすすめです。
▼電通総研は、マーケティングの施策立案や運用サポート、デジタルマーケティングツールの導入を支援しています。マーケティングにフレームワークを活用したい場合、こちらからお気軽にご相談ください。 ・電通総研のデジタルマーケティングソリューション https://crm.dentsusoken.com/digital-marketing/
マーケティングの分析にフレームワークを利用すると、客観的な視点にもとづく施策の考案や課題の抽出が可能です。フレームワークは環境分析や顧客分析、施策立案といった用途によって最適な手法が異なります。自社のビジネスに適したフレームワークを活用することで、マーケティング効果を最大化できるでしょう。
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