近年の地政学的に不安定な状況や半導体不足、AIの急速な普及、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の一般化など、様々な形での市場環境の変化が続いています。市場や顧客の置かれる環境が大きく変化し続ける中、BtoB製造業においても顧客接点の変化への対応と強化への取り組みが進みつつあります。
その取り組みの過程で、「CRM(Customer Relationship Management:顧客管理)ツールの導入だけでは上手く行かない」「顧客接点を起点としたマーケティング、営業、ものづくりプロセス横断での改革が必要」との認識をされ、ご相談をいただきご支援するケースが増えてきています。
今回はその取り組み事例を通じて、記事を目にした皆様の今後の取り組みへのヒントになればと考え、「顧客情報の部門横断活用 BtoB製造業での3つのポイント」と題し、お伝えして参ります。
今回お伝えする「顧客情報」は、市場を含むマーケティング情報や技術動向、個客状況・要望、販売見込み、メンテナンス・修理情報など、市場・顧客を起点として得られる情報として広く定義し、解説をいたします。
目次
BtoB製造業においては、個別受注製造やBTO(Build to Order:顧客から受注してから製品を生産すること)など、個客の要望に対応したものづくりの比重が比較的大きく、市場、顧客起点での企画、営業、ものづくりが重要視されています。近年の顧客を取り巻く外部環境の変化スピードが加速する中、他製造業から遅れがちであったCRMへの取り組みが顕著に増えてきています。
取り組みのきっかけとして、市場環境の変化に加え、近年の人材流動の加速や人材不足も大きく影響しています。これまでベテラン営業、ベテラン技術者頼りであった、人頼り体質の転換に向けた大きな曲がり角にさしかかっている状況です。
ベテラン頼り、属人的な仕事など、どの業種でも言われている、そう思われているかも知れません。しかしながら、BtoB製造業においてはこれからお伝えするような特性があることは見逃せません。
現場での実情から、重要な顧客接点の情報を会社として受け止め、把握し、活用出来ているとは言い難い状況が浮かび上がってきています。
では、近年進みつつあるCRMの導入がそのまま体質転換に繋がるのでしょうか?残念ながらそうではありません。では次に現場で起こりがちな例と併せて、その理由もお伝えして参ります。
製造業のDXに欠かせないPLMとCRMとのデータ循環のしくみ ~ユースケースを交えこれからの取組みを解説~
市場・顧客接点情報、VoC(Voice of Customer:顧客の声)は誰のもの?具体的に現場業務における「あるあるケース」を見て行きましょう。
情報収集者:営業部門 「顧客要求を技術に伝えているが見積を出すと違うと言われる。見積にスピードが必要なことを分かっていない。ベテランのAさんならこうならなかったのに。」
利用者:設計部門 「営業や営業技術は顧客要求を十分に聞けていない。だから手戻りが起こる。同行ばかりもしていられないのでどうにかして欲しい。」
情報収集者:サービス部門 「現場でのメンテや修理の情報を記録、共有しているが、次回の設計に生かされていない。同じ不具合のある製品設計で出荷されることもある。」
利用者:設計部門 「サービス記録は、サービス側の都合で残されているので設計に生かししづらい。もう少し再発防止の観点で記録されていると良いのに。」
情報収集者:マーケティング部門 「市場、技術動向情報を提供しているが。ちっとも開発に反映されない。」
利用者:開発企画、計画部門 「マーケ情報は自分たちにとっては不明瞭で活用しづらい。自社製品のことを本当に分かっているのか?」
情報収集者:営業部門 サービス部門 「工数をかけてVoCを収集、報告しているが、ちっとも製品に反映されない。たまに現場に来た時の情報だけで企画しているのでは?」
利用者:開発企画部門 「収集展開されるVoCは粒度や内容にばらつきが多く、企画の判断材料にしづらい。そのため、限られた工数で自ら情報を取りに行っている。」
情報収集者:営業部門 「営業の見込み情報を提供しているのに工場納期の遅延が頻発している。そもそも長納期部材の手配すらしていないこともある。」
利用者:生産管理・調達部門 「営業の見込み情報は営業都合も入っていて信用できない。個別品の調達にはリスクがあるため、調達納期遅延はある意味仕方がない。」
各例を端的にお伝えしましたが、総じて実業務においては、複数の顧客接点部門が得ている貴重な情報を他の部門が利活用出来ない状況にある、ということが見て取れます。収集者の目的、用途で集めた顧客情報を他の部門が思うように利活用出来ない、というのは自明で、ケースごとに個別の調整が実施されている状況が現場では見て取れます。
当事者が1対1の場合はまだ調整の余地があるのですが、関わる顧客接点部門や利用部門が複数に跨る場合は検討の着手自体が出来ていないケースが多いのが実情ではないでしょうか?
また、一見調整が出来ているように見えても、実際は情報を受け取った担当者が、個人的な経験に基づき情報を加工、判断をしているケースも多数見受けられます。(もうちょっとだけ、こういう情報を出してくれれば判断しやすいのに、、、)
以上をまとめると、BtoB製造業においては以下のことが言えると考えます。
このような現状に対し、顧客接点情報を集約する仕組みとしてのCRMをツールとして導入するだけでは、全く解決に繋がらないことはイメージいただけると思います。
CX戦略の作り方を事例から学べる ~CX戦略の作り方を事例から学べるガイドブック~
では、どのような取り組みが必要なのでしょうか?文章で表現すると、以下のようになります。
複数の部門の得る顧客接点の情報を、他の複数の部門の業務を見据えて収集、整理、活用することを各部門で合意し、仕組み化することが必要です。
また、取り組みのポイントは以下のとおりです。
以上は、部門単独での活動になりがちな改善活動では実現出来ないことばかりです。このような取り組みにあたっては、プロセス横断の変革リーダーの存在が必要となります。また、経験のある外部の力を借りることも有効でしょう。
プロセス横断での合理性を追求し、合理性に基づき業務設計する。設計された業務に対しては、それをミッションとして忠実に遂行する。そのような発想や取り組みが出来ていなかった。ものづくりにおける失われた30年がここにもあるのではないでしょうか?
「頭では分かっても、実際に取り組むのは難しい」のは事実です。スピード感を持って取り組みを推進していくためには、事例から学ぶのがひとつの方法です。具体的な取り組み例については、皆さまの取り組みのヒントにしていただけるよう、本サイトでお伝えして参ります。
「顧客情報の部門横断活用 BtoB製造業での3つのポイントと題しまして、お伝えして参りました。
日本のBtoB製造業においては、CRM、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)、ERP(Enterprise Resources Planning :企業資源計画)などに該当する業務領域における改善への取り組みが進みつつあり、各業務の効率化に進展は見られます。しかし、プロセス横断での取り組み、特に顧客接点における課題解決にはまだまだ大きな余地があります。
変化の速い市場や顧客への対応には、顧客起点でのプロセス横断の取り組みが必要かつ有用であり、より大きな効果が見込めることが今回ご紹介した「あるあるケース」からも確認できます。他方、部門間の利害、情報や仕組みの分断などの障壁が多数存在し、その取り組みには多くの困難が待ち受けていることも事実です。
本記事を最後までお読みいただいた方は、それぞれのお立場で、その困難を乗り越えてでも改革を推し進めたい、そう考えておられると拝察いたします。どのようにその困難を乗り越え、改革を推し進めたのか?皆さまに参考にしていただけるよう、様々な事例を含めて今後も引き続きご案内してまいります。
当サイトでは、CX戦略を学びたい方へ、ダウンロード資料をご用意しております。ぜひダウンロードいただき、資料をご活用ください。
なお、電通総研は、豊富な経験、事例に基づきコンサルティング、ソリューションの両面で、皆様の業務改革へ向けた次の取り組みをご支援いたします。気になるケース、取り組みテーマがございましたら、お気軽にお声がけください。
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