企業経営者は、事業の成長と競争力の強化を目指して、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルの創出を考えています。これがDX、つまりデジタルトランスフォーメーションです。 MuleSoftは、ETL機能をもった単なる便利ツールではなく、DX推進に活用ができる有用なAPI基盤です。 MuleSoftの真髄は、3層に配置したAPI主導のアプリケーション構造(API-led Connectivity) にあります。DXへの道のりでは、多数の概念実証(POC)によって小さな成功体験を積み重ねることも一つのアプローチです。これらは有用な洞察を提供することがありますが、時には全体のDX進行において具体的な進展を見失う場合もあります。そこで、本記事では、一歩引いて全体像を見つめ直し、API-led Connectivityの3層構造からなる統合されたアプリケーション基盤をどのようにDX推進に活用すべきかに焦点を合わせて解説します。
目次
MuleSoftの「API-led Connectivity」とは、アプリケーションを構築・統合する際に、API(Application Programming Interface)を中心に考えるアーキテクチャのアプローチです。下記3つの特徴をもちます。
アプリケーション開発や統合プロジェクトを進める際、APIが中心となるアーキテクチャを採用します。つまり、アプリケーションの異なる部分をAPIによって連携させ、効果的なコミュニケーションとデータ共有を実現します。
このアプローチでは、アプリケーションを小さな機能単位に分割し、それぞれの機能をAPIとして提供します。これにより、アプリケーション全体がよりモジュール化され、拡張や変更が容易になります。
API-led Connectivityは、異なるアプリケーションやサービスを効率的に接続し、データの流れを制御する手法です。これにより、ビジネスプロセスやデータの流れを最適化し、柔軟性を高めます。
要するに、API-led Connectivityは、アプリケーション開発や統合を行う際に、APIを中心に据え、アプリケーションの機能を小さなブロックに分けて、それらを効果的に組み合わせて利用するアプローチです。
APIを配置する3つの層(Layer)は以下になります。
ここでは、企業が保有する既存のシステムやデータベースといったバックエンドのリソースに接続するためのAPIが配置されます。たとえば、SAPやSalesforceのような既存のアプリケーションに対して、個別にAPIを設定してデータを取り出すことができます。
この層では、複数のシステム層のAPIからデータを集約し、ビジネスロジックやプロセスを実装します。たとえば、注文処理のような特定のビジネスプロセスに必要なデータを、異なるシステムから集めて処理します。
最上層では、最終的なユーザーインターフェースに接続されるAPIが存在します。モバイルアプリやウェブアプリケーションに対応したAPIを通じて、エンドユーザーがビジネスプロセスにアクセスしやすくなります。
この3層構造により、個々のAPIが特定の機能に集中することで、より再利用可能で管理しやすいアーキテクチャが実現されます。また、これによって、新しいアプリケーションやサービスを迅速に開発し、既存のシステムに容易に統合することが可能になります。
ここまでの説明では、わたくしもそうでしたが、APIを3層に配置する構造のどこがいいのかピンとこないかと思います。どうすればわかりやすいか様々考えた結果、似たような構造が身近にあったので、これを使って説明いたします。 電子製品(例: ドライヤー)と海外のコンセント、さらに海外の電圧に対応するための変圧アダプターの3つの製品を組み合わせた仕組みを例として考えてみました。これは、MuleSoftのAPI-led Connectivityと同じように異なる要素を結びつけてシームレスな動作を実現するための組み合わせとして類似しています。 海外旅行に行く際、電子機器を持参することはよくあります。その際、異なる電圧規格を持つ国で使うために、変圧アダプターを使うことがあります。変圧アダプターは、旅行先の電圧に合わせて電子機器を動作させる役割を果たします。これにより、同じ電子機器を現地で新たに購入する必要がなくなります。
ドライヤー本体をエクスペリエンス層、変圧アダプターをプロセス層、コンセント(電源)をシステム層と考えます。 海外に行ってコンセントの規格が変更(システム層の変更)になっても変圧アダプター(プロセス層)のおかげで、現地でドライヤーを購入(エクスペリエンス層の変更)しなくて済みます。
つまりAPI-led Connectivityの3層構造なら、バックエンドのシステムの変更があっても、すでに用意されたプロセス層のおかげで、エクスペリエンス層を変更する必要がなくなるということです。 変更範囲を極小化することは、これに応じ、同時にテスト範囲も小さくできるので、全体としての導入スピードを格段に向上させることができます。
MuleSoftは、多彩な変換機能をもつプロセス層のAPI、多様なバックエンドシステムの出力を管理するシステム層のAPIおよび種々のデバイスとの連携のためのエクスペリエンス層のAPIを提供することで、変化に柔軟に対応し続けるITシステムの構築を支援します。
ここでは実際の拡張開発のタイプをわけて、フロントとバックエンドをひとつのプログラムで連結する「従来型構造」と、3層構造の「API-led Connectivity」とを比較します。
拡張開発のタイプ
ユーザーの利便性を高めるためにモバイルアプリケーション対応が必要になった場合。
データ分析の精度向上のために新たなデータベースリソースをシステムに統合する必要が生じた場合。
比較項目 ① コーディング量: 必要とされるプログラムコードの量。 ② テスト量: 開発後のテストに必要な作業量。
比較検討
従来構造では、フロントエンドからバックエンドまでの既存プログラムをコピー&ペーストして新たにモバイル用のプログラムを作成する場合が多いので、フルスタックでの全体テストが必要になります。これは、コーディング量もテスト量も倍増するという意味です。
API-led Connectivityの3層構造では、エクスペリエンス層のAPIのみを新たに追加し、そこに限定してテストを行うだけで済みます。これにより、コーディングとテストの両方で大幅な効率化が見込めます。
従来構造では、元々あるプログラムに加えて、モバイル対応で新たに作成したプログラムにも、DB追加のロジックを組み込み、全体のテストを再度行う必要があります。これは、さらなる作業の増加を意味します。
API-led Connectivityの3層構造の場合、DB読み込みロジックの変更はシステム層のAPIにのみ行い、限定された範囲でテストが完了します。これは、再び大きな作業の削減につながります。
上記の比較から、API-led Connectivityの3層構造は、実践的な意味においても、新しい機能の追加や既存機能の拡張において、コーディングとテストの両面で効率的なアプローチを提供します。変更に伴う影響範囲を局所化し、作業量を大幅に削減できることで、ビジネスの迅速な対応と技術的な持続可能性を実現します。
API連携基盤ソリューション(MuleSoft)基本ガイドブック ~既存システムへの投資を活かしシステム同士をつなぎ合わせる~
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業にとって避けて通れない重要な取り組みです。MuleSoftを活用したAPI-led Connectivityへの変革は、この取り組みを大きく前進させることができます。ここでは、その変革ロードマップを以下のステップで説明します。
API-led Connectivity3層構造化は、基幹システムの刷新プロジェクトと並行するのがベストです。大きなポーションを占める基幹システム連携から新しい構造に移行させることは効果を最大に可視化できるので、その後の全体移行を進めやすくします。
基幹プロジェクトの設計局面で基幹システムのみならず企業の保有するアプリケーション連携全体を見直し、ToBeモデルを作成します。最終的なアーキテクチャを決めることで、大きな手戻りを回避します。
インターフェイス要件を3層に分割し3層それぞれの機能を設計します。機能一覧作成後、全体を俯瞰して機能の類似するものは集約し、機能によっては新規開発ではなくMuleSoft提供するAPIを適用します。機能設計に基づく開発はAnypoint Platform/Anypoint Studioで効率的におこないます。 <ChatGPTを活用したAPI設計・開発方法については別ブログで詳細説明します> これで基幹システムを取り巻くすべての連携は、統一された枠組みで行われるようになり、システム間のデータや機能が統合され拡張・保守がスムーズになり、効率的な運用が可能になります。
API-led Connectivity の3層構造の枠組みに入ったシステム連携は拡張や保守に関わるコストが大幅に削減されます。この範囲を拡大していくことがDX基盤完成へのロードマップになります。
一定の範囲でAPI-led Connectivityの 3層構造が確立したら、経営層・事業部からアイデアを収集します。APIの組み換えだけで新たなサービスを実現するパイロットプロジェクトを通じてMuleSoftの魅力を周知します。
MuleSoftによるAPI-led Connectivity3層構造への変革は、DXを成功に導く強力な推進力となります。このシステムアーキテクチャが持続可能であることが重要で、企業の未来を形作る礎(いしづえ)となるわけです。この変革は、組織の各層に多大な恩恵をもたらします。MuleSoftによるAPI-led Connectivityの3層構造への移行が、情報システム部、事業部、そして経営層にどのように貢献するかを見てみましょう。
情報システム部は、拡張開発および保守の省力化を実現します。API-led Connectivityの3層構造により、新しい機能や修正が必要な場合、関連する特定の層のAPIのみを変更すればよく、システム全体のオーバーホールが不要になるため、迅速な対応が可能になります。これにより、経営層や事業部の要望に迅速に応答することができます。連携がAPIに統一されることでシステム構造の可視化が進むことも大きなメリットになります。
事業部は、アイデアがITシステムとして実現されるスピードが格段に向上します。API-led Connectivityの3層構造はコンポーネントの再利用が容易なので、新しいビジネス要件やサービスの導入が前よりもはるかに迅速になります。これにより、市場の変化に素早く対応し、競争優位を維持することが可能になります。
経営層にとっては、DX推進のための道具立てが整備されることで、新しいビジネス戦略の実行がはるかに容易になります。経営戦略に対するITのサポートが強化されることで、組織全体の変革を号令しやすくなり、ビジネスのイノベーションを加速することができます。 このように、API-led Connectivity3層構造への変革は、組織のあらゆる層で効率と効果を最大化し、DXを推進するための強固な基盤となります。
「MuleSoftのAPI-led Connectivity概説」というテーマで、デジタル変革(DX)が急務である現代企業の課題に対し、MuleSoftの提唱するアーキテクチャについて解説しました。序章にも記述しましたが、DX完遂はPOCの積み重ねだけでは実現しません。POCは有用な洞察を提供することがありますが、時には全体のDX進行において具体的な進展を見失いがちです。そこで、私たちは一歩引いて全体像を見つめ直し、API-led Connectivity3層構造のような統合されたアプリケーション基盤に焦点を合わせることを提案します。これにより、個々のPOCの成果を超えた持続可能な変革をDXにもたらすことができるでしょう。私たちはアプリケーション基盤をDXに最適化する形に整えることを推奨します。MuleSoftのAPI-Led Connectivity、その変革を実現する最適なアプローチであると私たちは考えています。
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