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「2025年の崖」を越える鍵は市民開発とローコードにあった! (Vol.122)

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デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が日本で本格的に注目され始めたのは、2018年前後からです。経済産業省が2018年に「DXレポート」を公開し、既存システムの老朽化による経済損失(いわゆる「2025年の崖」問題)への警鐘を鳴らしたことをきっかけに、企業におけるDX推進の必要性が広く認識されました 。
以降、多くの企業で業務やビジネスモデルをデジタル技術によって変革する試みが加速しています。

DXを実現するアプローチは一つではありません。AIの活用、IoT導入、既存システムのクラウド化、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務自動化など、その手段は多岐にわたります。その中でも近年特に注目されているのが、「市民開発」と呼ばれるアプローチです。
本記事では、この市民開発に焦点を当て、DXとの関係性やメリット・課題、さらに市民開発を支えるツールであるMicrosoft Power Platformについて解説いたします。

市民開発とは何か:DXを支える新たな開発手法

“市民開発(Citizen Development)”とは、ITエンジニアではない業務部門の担当者が、自らの手で業務アプリケーションやツールを開発することを指します 。
従来、システム開発は専門の情報システム部門や外部ベンダーに任されるのが一般的でした。

しかしながら近年、IT人材の不足が深刻化し(経済産業省の試算では2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると言われています )、現場主導でデジタル化を進める動きがでてきました。これが市民開発の台頭です。

市民開発は「現場のデジタル化の民主化」とも言われ、専門知識を持たない社員でも使えるノーコード・ローコード開発ツールの登場によって現実的な選択肢となりました。社員自らが日々の業務課題を解決するためのアプリやシステムを作れるため、DX推進の切り札として注目されています 。つまり、市民開発はDXを現場レベルから支えるアプローチなのです。

DXと市民開発の関係性

企業がDXを推進する上で、市民開発は重要な役割を果たします。DXの目的は単なるIT導入ではなく、業務プロセスやビジネスモデルを革新することです。
そのためには現場の細かな課題までデジタル化・効率化していく必要がありますが、全てをIT部門だけで対応するのは困難です。ここで市民開発が力を発揮します。

現場の担当者が自ら必要なツールを作成できれば、各部門が主体的にDXに参画できるようになります。
例えば、経理部門のスタッフが経費精算のワークフローを自動化するアプリを作成したり、営業担当者が顧客管理の簡易ツールを作ったりすることで、現場の声を反映した迅速なデジタル化が可能になります。これはIT部門のリソース不足を補い、かつ現場ニーズに即したDXを推進する上で極めて有効です。
市民開発はDXを現場から底上げする原動力と言えるでしょう。

市民開発のメリット

市民開発を導入することで、企業はさまざまな恩恵を受けることができます。主なメリットを以下にまとめます。

  • 迅速な業務改善:現場の従業員自身が問題に気づき、その解決策となるアプリやシステムを素早く作成できるため、今までより短いサイクルで業務プロセスを改善できます。外部への開発依頼に比べて圧倒的にスピーディーです。
  • 業務ニーズへの高い適合性:現場を熟知した担当者が開発するので、使い勝手や機能が自部門のニーズに合致したものになりやすいです。「欲しい機能が備わっていない」といったミスマッチを減らせます。
  • コスト削減:専門の開発要員を新たに確保したり外注したりする費用を抑えられます。比較的低コストでツール開発・運用が可能になるため、DX推進にかかる総費用の削減につながります。
  • IT部門の負荷軽減とリソース有効活用:現場で対応可能な開発は現場に任せることで、IT部門はより高度で全社横断的なシステム整備やインフラ戦略にリソースを集中できます。結果としてIT部門・業務部門双方の生産性向上が期待できます。
  • 社員のエンゲージメント向上・スキル向上:自らのアイデアで業務改善できるため、社員の主体性や課題解決意識が高まります。また、ノーコード開発を通じてデジタルスキル習得やリスキリング(学び直し)の機会にもなり、社員育成の観点からも有益です。

以上のように、市民開発はスピード、コスト、適応性の面でDXを強力に後押しする手段となっています。

市民開発の課題と対策

一方で、市民開発には乗り越えるべき課題も存在します。現場主体の開発ならではの難しさを理解し、適切に対策することが重要です。

  • ガバナンスと品質管理の確保:専門エンジニアではない人々が開発を行うため、アプリの品質にばらつきが出たり、セキュリティやデータ管理面で不備が生じたりるする可能性があります。企業全体のITガバナンスの中で市民開発を位置づけ、開発ルールの策定やレビュー体制の整備が必要です。
  • ツール・アプリの乱立:各部門が自由に開発を始めると、似通った機能のアプリが社内に乱立したり、システムが個別最適化されすぎて全体最適を損なってしまったりうする恐れがあります。これを防ぐために、開発したツールを社内ポータルで共有したり、IT部門がカタログ管理を行うなど、見える化と統制が求められます。
  • 現場担当者の負荷増大:本来業務を持つ社員が追加で開発を担うため、負荷が高くなりがちです。市民開発を推進する際は、業務時間内に開発に取り組む時間を設ける、表彰制度で奨励する等、現場のモチベーションと余裕を確保する工夫が欠かせません。
  • 継続的なサポート体制:開発されたアプリの保守・改善を誰が行うかという問題もあります。担当者の異動や退職に備え、複数人でコードや設定を共有したり、IT部門が技術支援を行う枠組みを用意することが大切です。

これらの課題に対応するため、IT部門と業務部門の協働が不可欠です。
市民開発を成功させる企業では、多くの場合「センターオブエクセレンス(CoE)」と呼ばれる支援チームを設置し、教育・支援やガバナンスの仕組み作りを行っています。
課題を正しく認識し対策を講じることで、メリットを最大化しつつリスクを最小化することが可能となります。

市民開発を支えるMicrosoft Power Platform

市民開発を語る上で、欠かせないのが「ローコード/ノーコード」ツールの存在です。中でも代表的なのが、Microsoft社の提供するMicrosoft Power Platformです。
多くの企業で採用が進んでいるこのプラットフォームは、現場社員でも扱いやすい直感的な操作と強力な機能を備えており、市民開発を強力に支援します。

Power Platformは以下の主要コンポーネントから構成されています。

  • Power Apps(パワーアップス):プログラミング知識がなくても業務アプリを作成できるツールです。ドラッグ&ドロップの簡単な操作で社内向けのモバイルアプリやWebアプリを開発できます。例えば、申請フォームや在庫管理アプリなどを現場の発想で素早く形にすることが可能です。
  • Power Automate(パワーオートメイト):かつてのMicrosoft Flowにあたるサービスで、業務プロセスの自動化ツールです。様々なアプリケーションやクラウドサービスを連携し、定型業務を自動化できます(例:注文データの受信をトリガーに請求書を自動発行する等)。RPA的な使い方も可能で、繰り返し作業の効率化に貢献します。
  • Power BI(パワービーアイ):ノーコードで使えるデータ分析・可視化ツールです。社内のデータを集約し、グラフやダッシュボードを作成して共有できます。現場の社員が自らデータ分析を行い、意思決定に役立てる「セルフサービスBI」を実現します。
  • Power Virtual Agents(パワーバーチャルエージェント):会話型のチャットボットを構築できるツールです。FAQ対応や社内ヘルプデスクの自動応答ボットなどを、プログラミング不要で作ることができます(現在は「Microsoft Copilot Studio」に名称変更されています)。

このようなPower Platformの各ツールはいずれもローコードで扱えるよう設計されており、Office 365やDynamics 365といった他のMicrosoft製品との連携もスムーズです。

そのため、既にMicrosoftの製品を利用している企業にとって導入しやすく、社内の市民開発基盤として最適です。
Power Platformを活用することで、現場社員が自律的にDXを進められる環境を整備できるでしょう。

まとめ:DX時代における市民開発のすすめ

DXが求められる時代において、市民開発は現場力を生かしたDX推進の鍵となります。
専門知識の壁を越えて社員が開発に参加することで、企業全体のデジタル化を加速させることができます。

ただし、その成功には適切な枠組み作りと支援が必要です。本稿で述べたように、ガバナンス体制の整備やツールの活用、そして現場とITの協力体制がポイントになります。

こうした市民開発を効果的に行うための知見をまとめた書籍として、電通総研ではこの度「UiPath & Power Platform 業務効率化のための実践導入ガイド~市民開発力を高める実践アプローチ~」を刊行しましたhttps://amzn.asia/d/j4v5EKV) 。

この一冊では、現場主導の“市民開発”を成功に導くための実践的なアプローチを解説しています。
具体的には、RPAツールであるUiPathとローコードツールであるPower Platformの両方を活用し、業務効率化を図る手法を初級者から上級者まで分かりやすく紹介しています。
DX推進に取り組むビジネスパーソンにとって、本書は市民開発を実践するための心強いガイドとなるでしょう。

今後もDXの潮流は続いていくと考えられます。
その中で、単なるIT技術の導入にとどまらず、人材とデジタルの力を融合させて変革を起こす市民開発の重要性はますます高まっていくでしょう。社内の誰もがデジタル化の担い手となる時代――市民開発を活用し、ぜひ自社のDXを力強く前進させてください。今こそ、現場発の変革で企業の未来を切り拓いていきましょう。

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