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人的資本の情報開示を踏まえた従業員エンゲージメント向上策とは(Vol.56)

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近年のESG投資への関心の高まりや2020年にアメリカで人的資本の情報開示が義務化される流れの中で、わが国でも人材版伊藤レポートが公開され、2023年3月期より、日本の上場企業で「人的資本の情報開示」が義務となりました。ESGはEnvironment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス(統制)の意味で、人的資本はこの中のSocialに含まれています。このような流れの中で、従業員の能力向上についても企業価値を決定する重要要素のひとつとして、投資対象になりつつあります。投資家の目線からすれば、投資対象の企業がビジネスで利益を上げられるかどうかが投資の判断基準です。その中で働く人の能力や生産性が高まるのか否かは、財務の情報ではありませんが、重要な指標であることは理解できるでしょう。
人材がコストではなく資本であるという、大きな考え方の転換ですので公表されているガイドラインを参考にして社の経営戦略として経営者のリーダーシップのもとでの対応が求められます。

本記事ではIT・システムを活用した従業員の能力向上の取り組み、特に生成AI(ChatGPT)を活用した取り組みや環境作りについて解説していきます。方針を策定する参考にお読みいただければ幸いです。

また、有価証券報告書(有報)の追加項目について、IT・AIソリューションで環境整備時の記入例も載せています。有報を記載されるご担当者の方は是非ご覧ください。

※制度の内容は、内閣官房の非財務情報可視化研究会が発表している「人的資本可視化指針」をご確認ください。

人的資本情報開示の義務化

2023年1月31日に改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」が公布・施行され、1年以上が経過しました。この内閣府令では2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等への記載事項として、人的資本、多様性に関する開示(人的資本情報開示)を求めています。

1例として下記項目が増え、3月決算の上場企業では1度は記載されたことと思います。
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(30-2) サステナビリティに関する考え方及び取組
c bの規定にかかわらず、人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標について、次のとおり記載すること。
 ⒜ 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針
 (例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)を戦略において記載すること。
 ⒝ ⒜で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を指標及び目標において記載すること。
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 要約すると「人材育成・社内環境整備の方針、指標内容、指標目標と実績を書く」ことが求められています。
これを毎年開示する有価証券報告書に記載することになりますが、その時の社会情勢や環境変化に応じて方針や取り組みも修正していくことになります。有価証券報告書にアピールできる記載をするために、何か新しいことに取り組むのは本末転倒ですが、各期での社内方針の検討や取り組み内容、優先度決定に少なからず影響が及んでいることが想定されます。

人材育成・能力発揮の観点

組織での人材育成・能力発揮の観点は、2点あります。

①新たな能力・スキルを獲得させる
②既存の能力・スキルを十分に発揮させる

①は、経済産業省から「リスキリング」と呼ばれる言葉も提唱されていますが、次世代の働き方に向けて
新しいスキルを身につけるために研修やOJTを行うなど、取り組みもイメージしやすいと思います。
反面②は、具体的にどのような取り組みや環境整備をしたら良いか、想定しにくいかもしれません。各従業員が備えている能力の正確な定義や測定可能な数値、何をもって既存能力を十分発揮できているかの測定や評価が困難な場合もあります。

この辺りの定義や測定・評価方法の追及も必要ですが、「阻害要因を見つけて取り除く」という部分に注目すると、具体的な取り組みが想像しやすくなります。

既存の能力を発揮させるための取り組み

一例として、以下の対応順序が考えられます。

  1. 能力発揮を妨げている阻害要因を見つける
  2. 阻害要因を取り除くための仕組み・環境を用意
  3. 用意した仕組みで運用
  4. 効果測定と改善のための振り返り

阻害要因は、例えば何でしょうか?「会社員が調べものに費やす時間は 毎日1.6時間」という調査結果もあり、調べもので時間浪費しているという課題は各社にあると思います。分かりにくい社内手続きについて訊き回ってストレスが高まる、その結果既存の能力を発揮できず業務効率も落ちている、などにもつながります。

これらを軽減できれば、本来業務や「①新たな能力・スキルを獲得させる」時間を作り出せ、また時間外の労働を削減させる効果も期待できます。ストレスの少ない職場環境によって、組織への帰属意識も含めた従業員エンゲージメント向上にも有効です。実際に貴社でこのような阻害要因があるかは、従業員向けのアンケートやインタビューによって事実確認してください。調査の結果、上記の通りであれば、次の段階として時間削減とストレス軽減する仕組み・環境を考えていきます。

仕組み・環境を考える上では、IT・AIの活用が欠かせません。最近では企業内で使える生成AIや、Microsoft Vivaなどの従業員エンゲージメントを目的としたソフトウェアなども提供されており、これらを組み合わせて仕組みを作ることをおすすめします。

電通総研では従業員エンゲージメント向上を目的とした「従業員向けコンシェルジュ」ソリューションをご提供しています。社内の調べ物、質問、疑問などの困りごとに対してAIが自動でサポートするソリューションです。基盤技術として生成AI (ChatGPT)、Microsoft Viva、Dynamics365等の最新の技術を組み合わせて実現しているところが特徴です。

このようなIT・AIソリューションの活用によって素早く環境整備して取り組みやすくなり、また実際の取り組んでいる事実として、有価証券報告書に記載できる内容も充実していきます。

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有価証券報告書(30-2 c (a))に記載する取り組み例

IT・AIソリューションを活用して環境整備した場合、有価証券報告書にどのように記載できるでしょうか?
以下、記載例です。
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当社では人材ポートフォリオを定義し、事業戦略達成に必要な人材モデルの明確化とダイバーシティに対応できる職場環境を整備している。ポートフォリオにて不足しているポジションには、中途採用と在籍している従業員のリスキングの両面で対応している。

総合職の中途採用戦略については、国内の労働力人口減少やテレワークの一般化も踏まえ、海外居住のままでフルリモート勤務(海外現法に所属)も許可する前提で、グローバルな採用活動に取り組んでいる。

在籍している従業員の「人材育成」は、「①新たな能力を獲得させる」観点と「② 既存の能力を十分に発揮させる」観点がある。①は、従前より職種別研修やOJTを計画して取り組んでいる。②は、調べものに費やす時間やストレスの高まりが、既存の能力発揮を阻害させる一因と判明したため、これを軽減するために生成AIを活用したIT環境を整備した。

その結果、余裕ができた時間で①の教育により充実して取り組めるようになり、リスキリング実施率や中途入社者の満足度・定着率のKPIも達成できている。これらの好循環を維持し、業績向上と人的資本の価値向上に継続的に取り組んでいく。
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人材ポートフォリオや人事、採用戦略、エンゲージメント向上など、経営者の視点での記載ももちろん必要です。

ただ、経営層視点の記載だけですと、抽象度が高すぎて具体性が見えにくい印象を持たれることもあります。経営方針を踏まえた、従業員・現場視点での具体的例も記載をするのが望ましいです。これにより、より地に足がついた取り組みを積極的に実践している説明として好印象を獲得でき、企業イメージ向上や株価上昇などの波及効果も期待できますので大切なポイントです。

まとめ

「人的資本の情報開示」が義務化となり、従業員の能力向上についても企業価値を決定する重要要素のひとつとして、投資対象になりつつある状況です。ステークホルダーからの注目度は高く、方針や施策、その効果を説明する継続的な取り組みが必要でしょう。背景を正しく理解して、経理財務部門だけでなく人事や経営が一緒に力を合わせて適切な対応を進めましょう。この取り組みは人材戦略としてもメリットがあり、企業が成長するために役立つはずです。
リスキリングの促進以外にも、能力発揮の阻害要因を取り除ける仕組みや環境を用意することで、従業員エンゲージメントや人的資本の価値拡大が図れます。また、実際に取り組んでいることとして、自社の有価証券報告書に記載できる内容を充実させることが可能です。他社の開示の事例も増えてきましたので、自社の取り組みに参考にできる施策も多くあるかと思います。

電通総研では従業員エンゲージメント向上を支援する「従業員向けコンシェルジュ」ソリューションをご用意しています。

  1. ナレッジ参照できる
  2. 生成AIに訊ける
  3. サポートを要求できる
  4. 社内有識者に繋がることができる

上記4つの機能を備えており、ご要望やご予算によって柔軟にカスタマイズが可能です。これらのIT・AIソリューションを活用して、従業員の能力をより発揮させ、人的資本および企業価値を拡大させる取り組みを行っていきませんか?

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